市場に漂う根拠なき陶酔感にご注意を
市場では不透明感が高まり、ボラティリティが上昇している。これはファンダメンタルズを正確に分析した上での動きではなく、投資家が混乱して、カジノのギャンブル状態になっていることを示している(都市封鎖で営業しているカジノはないと思うが!)。
常に指摘していることだが、当社では投資はトップダウン分析によって行うべきだと考えている。ある価格の動きに対して理由が一つだけであることはないが、既にある情報を理解しようと努めることが重要である。当社では、詳細な分析と慎重な観察によって現在の変化を迅速に評価し、投資戦略を立てている。
本投稿を執筆している時点で、ダウ平均株価指数は私が既に上限だと指摘した24,000近辺にある。史上最高値から下落し、その後50%修正したことになる(図1に示す)。

現在、投資家は以下のことを疑問に思っているはずである。
1.株価が回復した理由
2.このまま相場は回復するのか
以下でこの疑問に順番に回答していくことにする。
1.株価が回復した理由

先週買いが起こったのは、テクニカル要因で売られ過ぎだったこと以外では、以下のことが背景となっている(上図2にあるように)。
トランプ大統領が原油価格に介入:トランプ大統領の口先介入を受けて、OPECと主要産油国が日量1,000万バレルの生産削減に合意したことで原油市場に期待感が広がった。これによりやや強気の見方が台頭して石油関連株にやや勢いが戻り、ダウの底が形成された。
トランプ大統領の経済活動は再開するとの楽観的な見方:ウィルス感染者数が「カーブ」のピークを越えそうだと述べたトランプ大統領の楽観的な見方に反応して、ダウは急上昇した。投資家は買うための理由を探しており、トランプ大統領の米国経済を再開させたいという意図に急に反応した。しかし現実には、米国の経済指標は企業がウィルス感染の影響をかなり受けていることを反映し始めたところであり、今後雇用が大幅に減少することが予想されている。
米FRBの景気刺激策:そして、FRBは中小企業への直接的な融資を通じて2.3兆ドルを供給するという大型支援策に乗り出した。この規模はGDPの約10%に当たり、COVID-19の打撃に対して他国が行っている刺激策と似たような規模であるが、現在の米国政府の債務額と債務上限規定(米国債シーリング)からして、政府内で問題となるだろう。システムが既に弱くなっているところに、債務問題が更にどの程度の打撃となるかはまだ分からない。
既に述べたように、当社ではAI(人工知能)テクノロジーへ投資していることもあり、グローバルマクロ運用において、市場のそれぞれの動きに対してファンダメンタルズ上の理由を見つけるのを第一歩としている。こうすることで状況をより正確に分析することができ、より明確な根拠に基づいて将来の予想をすることが可能になっている。
2.この回復は続くのか
以下で各要因を検証し、この動きが続くかどうかを考えてみる。
原油価格に関しては、トランプ大統領は就任一日目からはっきりとした介入を行っており、市場に対して重要なシグナルとなってきた。原油価格が今の低水準に留まるなら、米国の多くの原油生産会社は破綻することになり、選挙年にそうなることは避けたいとトランプ大統領は考えている。特に原油生産量の大きいニューメキシコ州やコロラド州では影響が大きくなる。しかし、市場は直近で産油国が合意した削減量は十分で無く、ウィルス感染の拡大による需要減少の方が大きいと見ているようで、実際には原油価格は金曜日の下値近辺にある。
COVID-19の感染者数がピークを越えるか、経済活動を再開できるかに関して、判断を下すのは時期尚早である。更に、感染の第二波がどうなるかもまだ懸念材料である。感染者数は鈍化しておらず(実際には現在感染者数はピーク近辺のままである)、リセッションが始まりそうであり、経済回復はまだ先となるかもしれない。
FRBの景気刺激策の規模はGDPの10%に近く、他国の刺激策の規模に近い。しかし、米国は失業保険申請件数が3週間で史上最大の2,000万件近くとなり、エコノミスト誌は失業率が30%まで上昇すると予想している。感染者数が減少し始めても、通常の経済活動に戻るまでに何カ月、何年とかかるだろう。企業収益も大幅に減少することが予想される。
それでも価格は回復するか
経験則から、株式市場は企業の収益の減少に沿って下落する。世界のリセッションがどのくらい深刻になるかを考えると、今年利益は半分になりそうであるが、ダウは底から戻ってピークから20%以内のところにある。通常米国株は一旦30%下落し、経済がリセッションになれば、その後底を打つまで6カ月以上かかる。COVID-19では、6カ月程度ではまだ先は見えないだろう。よって、今が底だと考えるのは無謀なことであり、ギャンブルである。当社では投資においてそのどちらの要素も排除している。
史上最大規模の刺激策が行われ、経済的打撃を和らげることができるという期待はあるが、過去の例からして株式市場の急速な回復にかけるのは、奇跡を期待しているようなものかもしれない。
今後、不透明感とボラティリティにどう対応するべきか
先週の株価回復は、各政策当局の意図を反映しただけの根拠のない陶酔が起こったことが原因である。情報が影響し、手段を選ばない政府の介入でリスク・オンの動きが再開した。しかしこの動きのせいで「市場」は歪んでおり、陶酔に追随して投機すべきではない。今の価格は実体を反映しておらず、政府が指針で希望していることを反映している。トランプ大統領がビジネスマンであるのは皆の知るところであり、選挙対策の為に口先介入で市場を支えようとしている。しかしこれは実体を反映しておらず、過去に例のない大規模な政治的・経済的動きが市場価格を形成している。
人生では時間が経たないと分からないことがある。当社では、長期的には真実が現れると考えている。よって慎重に投資をしたい。コロナウィルスにより経済が大きく減速し、3週間で2,000万人が失業したが、これは今後起こる失業率上昇、設備投資減少、流動性低下といった悲劇の始まりに過ぎない。サプライチェーンの混乱と消費の減少で企業収益が大きく減少するということは想像に難くない。
とはいえ、FRBの無限の刺激策がリスク・オンの動きに全く影響しないと言っているわけではない。根拠がなくとも、市場は最終的に参加者の意図で構成される。よって、2008年の世界金融危機後の量的緩和政策で起こったように、このような危険な投資行動が新常態となるかどうかを観察していく必要がある。こういった陶酔感は、実体経済が受けた打撃が大きいということが明確になれば消えていくはずであり、今回はそうなる可能性が高いと当社では予想している。
誰がレースに勝つかは分からない。経済に与える影響がどうなるかを予想するには現時点ではまだ情報が足りない。一つ確かなのは、2008年の世界金融危機の後と同じことが起きると考えるのは楽観的すぎるということである。
– RT