FRBが今の方針を続けることを市場が再確認すればモラルハザードが誘発されるか
株式市場が活気づき、抗議デモが世界で広がる中で、本日FRBは6カ月ぶりに経済見通しを発表する。政策が大きく変更されることは無さそうだが、FRBがハト派のフォワードガイダンスを維持し、必要な限り刺激策を行う準備があるということを確認する内容になると市場参加者は予想している。
FRBは新しい対策・政策を導入し、「必要なだけの支援をする」というアプローチを取っているが、これまでそれが市場に与える影響は大きくないとしている。しかし、FRBがモラルハザードに関して難しいバランスを取らなければならない立場にあることに市場の関心が集まっている。
経済学上は、自身がリスクをすべて負わなくていいことで、リスクへのエクスポージャーを増やすようになる時にモラルハザードが起こる。
ビル・ダドリー前ニューヨーク連銀総裁は先週インタビューで以下のようにはっきりと答えている。
「FRBの選択肢は、景気回復は無く不平等を抑えるか、金融資産の価格を上げて景気を回復させ不平等を拡大するかのどちらかである。FRBの動きは過剰なリスクテイクとモラルハザードを助長している。この状態を続けるのは良くないと思われるが、止めるのも難しい」。FRBの政策と最近活況な金融市場に関しては、「ヘッジファンド、住宅ローンREIT、ミューチュアルファンドといった資産への資金の流れを止めれば、景気後退に陥ることが懸念されるが、そのリスクは誰も取りたくない」と述べている。
実際にFRBは経済減速を和らげる為にかなり積極的に各種対策を行っている。可能な限りの債券買い入れを行う準備であり、景気回復の為にあらゆる手段を用いるというスタンスだということを引き続き投資家に示している。
投機には絶好のチャンスである。企業救済や政策でサポートされた資産価格を見て、多くの投資家がチャンスに飛びつき、株を急激に買い、株価はパンデミック前の史上最高値近くに戻った。債務超過企業、ゾンビ企業、倒産企業にまで資金を注ぐような状況も起こっており、アナリストはこういった動きは金融安定性を損なうと懸念している。
最近の資産価格の急激な回復の主な原因はFRBの動きであるが、実際の米国社会「メインストリート」では、コロナウィルスの感染で何千万人という低所得の人と、黒人・ヒスパニックが雇用を失い、所得が減るという不平等で壊滅的な状況を招いている。
しかし、7月以降に終了する予定の政府のパンデミック失業給付のうち、こういった実際に影響を受けた人々に支払われたのは3分の1に過ぎない。また、FRBの企業融資制度を通じで、何十億ドルという現金が株主還元となり、役員の報酬に用いられる一方で従業員の雇用は確保されない。
FRBのデータでは、米国家計の半分強(約6,500万人)が何等かの形で株を保有しており、その60%以上が白人家庭である。

しかし、金融資産の多くを保有している一番裕福な層のアメリカ人がFRBによる過去最大の支援策で金融市場が上昇した恩恵を一番受けている。

人種差別に対して世界中で抗議デモが広がる中で、FRBはこれが経済に新しいリスクとなることを防ぐ必要がある。パウエル議長は議長就任以来、政策の効果の不平等や配分に取り組む必要性があることを認識していると述べており、抗議に同意する動きと、それが意図に反するような悪い結果を招く可能性の間で難しいバランスを取らなければならなくなっている。
コロナウィルスとそれが長期的に与える影響に関して分かっていないことが多く、今後FRBは慎重になり、トーンは曖昧になると予想している。これまで株と国債利回りは上昇したが、経済をサポートする為にできることは何でもするというスタンスが変われば、市場は一転して混乱する可能性がある。もう一つ、先週経済成長率と相関のある失業率が意外にも低下したことも気になる。
市場はFRBが景気支援策を続けることを信じているが、2008年以降、金融市場と実体経済のファンダメンタルズが乖離することが多い。勿論、実体経済が重要である。
米国全体で抗議デモが激化し、コロナウィルスの影響も続く中、今株を買えば、来期の企業の収益の20倍以上の価値を払うことになってしまう。
もし倒産が増えれば…
もし企業収益が弱く推移すれば…
もし失業率が例外的に高いままなら…
そして、もし世界の景気後退が現在市場が織り込んでいるよりも深刻なら…
以上のことを市場が認識するようになれば、ここ2週間ほどの強い買いは終わり、急速に売られる可能性が高い。 時節柄どうぞご自愛くださいますようお願い申し上げます。
– RT